フォルダを選ばずに始めると、何が起きるのか
Codexは、作業対象のフォルダを選ばないままタスクを開始できます。Claude Codeがフォルダ(作業ディレクトリ)を選んでからセッションを始める設計であるのに対し、Codexには「フォルダを決めずにスタートする」という選択肢がある——執筆時点(2026年7月)に筆者が実機で確認した、両ツールの設計の違いです。どちらが優れているという話ではありません(設計思想の違いはClaude CodeとCodexの比較で扱っています)。本記事では、この「フォルダなし」の挙動を入り口に、AIエージェントの本質を掘り下げます。
では、フォルダを選ばずに始めるとどうなるのか。筆者が確認した範囲では、Codexはローカルのファイルシステムに一切触れない、自己完結型のタスクとして動きます。つまり「フォルダを選ばない」という操作は、手抜きでも省略でもなく、「このタスクは特定のコードベースや既存ファイル群を読み書きする必要がない」とCodexに伝えているのと同じなのです。
「フォルダを選ばない」は省略ではなく宣言
フォルダなしが向いているのは、共有のプロジェクトコンテキストを必要としない仕事——手元の既存ファイルを踏まえる必要がなく、依頼文だけで完結する単発の仕事です。逆に、手元のファイルを直してほしい仕事や、プロジェクトの文脈を踏まえてほしい仕事では、フォルダを選ぶことがそのまま「この範囲を見て働いて」という指示になります。フォルダ選択は面倒な儀式ではなく、仕事の範囲を伝えるコミュニケーションの一部です。
成果物はどこへ行くのか — チャットに提示され、保存先は自分で選ぶ
フォルダを選んでいない以上、成果物が手元のフォルダへ直接書き込まれることはありません。筆者が確認した範囲では、成果物はチャットの中にファイルとして提示され、必要なものを手動でダウンロードするときに保存先を指定する、という流れになります。
この設計は、初めてAIエージェントに触れる方にとっての安心材料でもあります。ローカルのファイルに触れないモードなので、「AIが勝手に手元のファイルを書き換えてしまうのでは」という心配をせずに、まず一度任せてみることができます。既存の何かを壊すリスクなしにエージェントの働き方を体験できる、ちょうどよい足場と言えます。
ただのChatGPTと何が違うのか — 分かれ目は実行ループ
ここで自然な疑問が湧きます。フォルダも選ばない、成果物はチャットに出てくる——「それなら、ただのChatGPTと同じではないか?」。結論から言えば、まったく違います。分かれ目は、エージェントとしての実行ループがあるかどうかです。
ChatGPTは、会話の中で成果物を出力するだけです。どれだけ精緻な回答でも、それは「文章として書かれたもの」であり、動かして確かめられてはいません。一方Codexは、フォルダを選んでいなくても、サンドボックスやクラウドコンテナという実行環境を用意し、その中でツールを使い、作ったものをテストし、結果を確認して直す——このループを回してから成果物を出します。
たとえるなら、ChatGPTはレシピを出してくれる人です。対してCodexは、レシピを書いた上で厨房に立ち、実際に調理をして、料理——つまり成果物を出してくれる人です。同じ「チャット欄で頼む」体験に見えても、厨房で手が動いているかどうかがまるで違います。
表は横にスクロールできます →
| ChatGPT | Codex(フォルダなし) | Codex(フォルダあり) | |
|---|---|---|---|
| 実行環境 | なし(会話のみ) | サンドボックス/クラウドコンテナ | サンドボックス+選んだフォルダ |
| 手元のファイル | 触れない | 触れない(自己完結型) | 選んだフォルダ内を読み書き |
| 動き方 | 質問に回答を返す | 実行と確認のループを回す | 実行と確認のループを回す |
| 成果物 | 回答テキスト | チャット内にファイルとして提示 | フォルダ内のファイルに反映 |
右の2列(Codex)に共通し、左の1列(ChatGPT)にないもの——それが実行環境と実行ループです。フォルダの有無は「どこまでの範囲を読み書きするか」の違いにすぎず、エージェントであることの本体は失われていません。
サンドボックスという境界と、エージェントの自律性
この実行ループを支えているのが、サンドボックスやクラウドコンテナという実行環境です。ここを理解すると、AIエージェントの「自律性」という言葉が具体的になります。当社は研修で、自律性を「与えられたゴールと制約の範囲内で、次に何をすべきかを自分で判断し、自分でコマンドやツールを実行し、その結果を見て次の行動を変えること」と定義しています。
ポイントは「自分でコマンドを実行する」の部分です。実行するからには、「どこでなら実行してよいか」という境界が必要になります。その境界が、サンドボックス(手元のパソコン上に用意される隔離された実行環境)であり、クラウドコンテナ(クラウド上の隔離環境)です。フォルダを選ばないタスクでは、Codexはこの境界の内側だけで仕事を完結させ、境界の外側——あなたのローカルファイル——には手を出しません。なお、クラウド側での実行についてはCodexのWeb版とスマホ活用で詳しく解説しています。
「自律性の高さ」と「境界の明確さ」はセットで見る
「AIが自分でコマンドを実行する」と聞くと、不安に感じるかもしれません。しかし裏を返せば、実行できる場所が明確に限定されているからこそ、安心して任せられるのです。企業でAIエージェントの導入を検討する際は、自律性の高さだけでなく、実行範囲の境界がどう設計されているかをセットで確認することをおすすめします。
どう使い分けるか — ChatGPT・フォルダなし・フォルダあり
- 会話・相談・文章の壁打ちだけでよい — ChatGPTで十分です。実行環境を持ち出すまでもありません
- 既存ファイルと無関係な、単発の成果物が欲しい — フォルダを選ばずにCodexへ。実行環境で作って・動かして・確認した結果が返ってきます
- 手元の資料やプロジェクトの文脈を踏まえてほしい — フォルダを選んでCodexへ。読み書きの範囲を渡すこと自体が指示の一部になります
ChatGPTに慣れた方がCodexの画面を前にして、「まずフォルダを選ばなければならないのか」と手を止めてしまうとしたら、もったいないことです。フォルダを決めなくても始められると知っていれば、最初の一歩は「とりあえず頼んでみる」でかまいません。そこから先の頼み方の広げ方は、Codexの使い方で解説しています。
そして組織での活用を考えるなら、本記事で見てきた「チャットで済む仕事」「フォルダなしで任せられる仕事」「フォルダを渡して任せる仕事」の線引きを、誰もが迷わない形に設計することが定着の鍵になります。当社のCodex研修・導入伴走支援では、貴社の実業務を題材に、この仕分けから運用ルールづくりまでを一体でご支援しています。
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