就業規則の改定作業が重い本当の理由
改定内容そのものを考える時間より、変更が波及する箇所をすべて追いかける時間のほうが長い——就業規則を扱う方なら心当たりがあるはずです。具体的には、次の作業が連鎖します。
- 条番号の繰り下げ — 新しい条文を挿入すると、以降のすべての条番号がずれる
- 参照条文の付け替え — 「第12条に定める」と他の条文から参照されている箇所を、全条文から探して直す
- 新旧対照表の作成 — 顧問先への説明・意見聴取・届出に使う対照表を、変更点の分だけ作る
- 附則・施行日の整理 — 改定履歴と施行日を今回の改定に合わせて整える
これらは判断ではなく突合の作業です。そして長い文書の突合は、人よりAIのほうが速く、見落としも少ない領域です。ここをClaude Codeに渡し、労務の判断だけを専門家の手元に残します。
実演の題材 — 現行28条の規則と、社長からの要望メモ
勉強会で用意したのは、架空の会社の現行就業規則(全28条)と、「先週の打ち合わせで社長から出た要望」という設定の改定方針メモです。メモの中身は実務でよくある4項目にしました。
- フレックスタイム制の導入(対象者・コアタイム・清算期間などの設計が必要)
- 年次有給休暇の時間単位取得の追加
- 慶弔休暇の日数見直し
- 在宅勤務に関する章の新設
この題材のポイントは、条文の挿入が必ず条番号のずれを起こすことです。用意した規則では複数の条文が他の条文から参照されており、そこを漏れなく追えるかが見どころになります。
指示文 — 「要・確認」を入れさせるのがポイント
就業規則_現行.md と 改定方針メモ.md を読んで、
改定案のドラフトを作ってください。
条文を挿入したら、条番号のずれと、他の条文からの参照の整合を
必ず確認してください。
労務の判断が必要な箇所には「要・確認」とコメントを入れてください。この指示には2つの設計が入っています。1つは参照整合の確認を明示すること。もう1つは、労務の判断が必要な箇所をAIに断定させず「要・確認」として残させることです。判断を専門家の手元に置いたまま、作業だけを渡す線引きが、この一文で成立します。
実演では、新設・改定・条番号繰り下げ・参照付け替えの凡例つきドラフトが生成され、フレックス条文の挿入にあわせて以降の条番号が繰り下がり、参照箇所も付け替えられました。「要・確認」コメントは判断が必要な箇所に複数挿入され、「ここは会社と決めてください」と返ってきます。
さらに、指示していない論点への指摘もありました。在宅勤務の費用負担のように規則への記載を検討すべき事項を先回りして挙げてくる形です。もちろん、その指摘を採用するかどうかの判断は専門家側にあります。
追加指示で新旧対照表と附則まで
ドラフトを確認したら、説明資料に必要なものを後から足します。実演で使った追加指示は次の2つです。
変更点が一目で分かるように、新旧対照表も作ってください
附則の施行日も、今回の改定に合わせて直してください新旧対照表は、顧問先への説明や従業員代表の意見聴取の場でそのまま使える形の下書きになります。ゼロから表を組む作業がなくなるだけでも、改定1件あたりの負担は大きく変わります。
論点の切り分け — 「会社と決めること」と「専門家が判断すること」
勉強会では、ここからさらに3つの指示を重ねました。改定実務の後工程まで一気につながる部分です。
クライアントと決めるべきことと、専門家として判断すべきことを
分けて表にしてください
クライアントと決めるべきことは、確認のメールを送りたいので
Gmailの下書きを作っておいてください(送信はしないでください)
「要・確認」や条番号繰り下げの注記を抜いて、
確定版としてWordファイルで出力してください- 論点の切り分け表 — コアタイムの時間帯など「会社に決定権がある論点」と、法令適合性など「専門家が判断する論点」が一覧になる
- 確認メールの下書き — 会社に決めてほしい項目をまとめたメール文案が、そのまま送れる状態で下書きに入る
- Word形式の確定版 — 注記を除いた清書が.docxで出力される。自社フォーマットのサンプルを渡せば、体裁もそれに合わせられる
「規則を直す」だけでなく、顧問先との合意形成に使う資料一式までが1つの流れで揃う——ここまで含めて任せられるのが、チャットAIとの大きな違いです。
「作らせて終わり」にしない — 最終判断は専門家の仕事
AIは下書きと突合の担当、判断は専門家
生成された改定案は完成品ではなく、レビュー用のドラフトです。法令への適合性、労使への影響、顧問先の実態との整合は、社労士・専門家が確定させる前提で運用してください。「要・確認」を残させる指示は、この役割分担を崩さないための設計です。
精度を上げる実務のコツは、その顧問先の関連規程をすべて同じフォルダに入れておくことです。賃金規程・育児介護休業規程などがあれば、どこからどこへ参照が張られているかをAIが横断して確認し、「この条文を変えるなら、こちらの規程も変わります」と指摘してくれます。
法改正対応でも同じ型が使えます。改正内容の資料と現行規則を渡し、影響を受ける条文の洗い出しと改定案の下書きまでを任せる形です。ただし改正の解釈・適用の判断は、必ず一次情報と専門家の確認を挟んでください。
文書業務は実データがほぼ不要 — 今日から試せる
就業規則のような規程文書は、給与データと違って個人情報をほとんど含みません。厚生労働省のモデル就業規則のような公開文書でも練習できるため、AI活用の最初の一歩として試しやすい領域です。
社労士業務全体でのClaude Codeの位置づけは社労士事務所のClaude Code活用を、チェック業務への展開は給与計算のダブルチェックをご覧ください。
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