「気づけば、1日中Claude Codeの画面で仕事をしています」——3ヶ月の支援を締めくくる最終定例で、経営メンバーの方はそう振り返られました。
支援開始前、株式会社パラダイムシフト様のM&A実務でのAI活用は、チャット型AIに質問する使い方が中心でした。それが今では、社内サーバー上でAIエージェントが24時間稼働し、業務の進捗確認からメンバーへの連絡まで、人がPCでClaude Codeを立ち上げていなくても自走するまでになっています。本記事では、その変化に至った3ヶ月の歩みを時系列でご紹介します。
会社概要
株式会社パラダイムシフト様は2011年設立、「DX×M&Aで、革新を促す。」を掲げるM&Aアドバイザリー・事業開発の専門ファームです。IT・デジタル領域の知見に強みを持ち、テクノロジー企業のM&Aを数多く手掛けられています。
特徴的なのは、アドバイザリーファームでありながら社内にエンジニアリングチームを擁し、業務システムを自社開発するほどの技術文化を持つこと。「金融×テクノロジー」を体現する組織であり、この技術力が後にAIエージェント導入の大きな推進力になりました。

支援前の状況
支援前から、チャット型の生成AIツールは日常業務に浸透しており、社内のAIリテラシーは決して低くありませんでした。エンジニアリングチームに至っては、複数のAIエージェントを並行して立ち上げながら開発を進めるほど先行していました。一方で、M&Aの実務を担うコンサルタントの活用は「調べる・書く・要約する」というチャットの範囲にとどまり、資料作成や定型業務そのものをAIに任せるところまでは踏み出せていない——エンジニア以外の現場は、多くの企業と同じ「次の一歩」の手前にいらっしゃいました。社内にある活用度の段差を、組織全体の力にどう変えるかも論点の一つでした。
M&Aアドバイザリーの実務は、案件ごとの資料作成・情報整理の比重が大きい仕事です。提案資料や案件概要資料には高い品質と厳格な機密管理が同時に求められ、「時間はかかるが、外部に任せることもできない」業務が積み上がっていました。
そこで構想されたのが、エージェント型AI「Claude Code」の全社活用です。ただし、機密性の高い情報を扱う事業特性上、セキュリティ設計や運用ルールを曖昧にしたまま進めるわけにはいきません。「攻めたいが、守りも固めたい」——この両立をどう設計するかが、支援開始時の出発点でした。
支援の目標
キックオフで経営メンバーの方から示されたのは、「社員がPC作業に費やす時間を減らし、人にしかできない仕事に集中できる組織にしたい」という明確な方針でした。AIを「便利な道具」で終わらせず、働き方の前提から変える。トップの意思がはっきりしていることが、この支援の最大の追い風になりました。
そのうえで3ヶ月のゴールを、単発の研修で知識を増やすことではなく、「日常業務の中にAIエージェントが自然に組み込まれた状態をつくること」に設定。週次の定例で進捗と課題を確認しながら、実務に直結するテーマから一つずつ形にしていく進め方を選びました。
支援の内容
- 月1回の訪問ミーティング+オンライン定例(週次)による3ヶ月の伴走
- Slackでの常時質問対応
- Claude Code環境構築の初期サポートと専用教材(会員サイト)の提供
- Claude Teamプラン導入・組織運用設計(共通ルール・ナレッジ共有方法)の助言
- 議事録作成から社内システム登録までの自動化ワークフローの設計支援
- M&A実務資料の作成をテーマにしたスキル化とフィードバック
- 実務テーマを持ち寄る少人数ワークショップ研修(90分)の実施
支援の歩み
1ヶ月目(2026年5月)
土台づくりと、最初の自動化
初回の訪問では、部門ごとの業務とツールの棚卸しからスタート。日々の仕事が何に時間を使っているのか、情報がどのツールに散らばっているのかを一覧化し、「AIに任せられそうな業務」の候補を洗い出しました。あわせて、組織的なAI活用の土台となるClaude Teamプランの導入をご提案すると、パラダイムシフト様は即座に契約を決定。このスピード感が、その後の3ヶ月の密度を大きく変えることになります。
この初期に徹底されたのが、「ブラウザのチャット画面ではなく、IDEやターミナルからAIを使う」への切り替えです。チャットに質問する使い方のままでは、ファイルの操作やツール連携を伴う「仕事そのものを任せる」使い方には進めません。エンジニアと同じ入口からAIを使うことを全員の標準とする方針を早々に固め、社内ではスクリプトやスキル(AIに渡す作業手順書)の開発大会も開催。手を動かして覚える文化が、最初の1ヶ月から動き出しました。
最初のテーマに選んだのは、全部門に共通する「議事録」でした。会議を録音すると、文字起こしから議事録の作成、社内の案件管理システムへの登録までが自動で流れる——この一連のワークフローを設計し、ツール同士が直接つながらない部分はチャットツールを中継点にするなど、既存の業務環境を活かした構成を一緒に検討しました。
驚かされたのはここからです。設計の方向性を共有すると、同社のエンジニアリングチームが連携の仕組みを次々と実装し、当初「伴走しながら少しずつ作る」と想定していた部分を自走で作り切ってしまいました。導入初月にして「録音すれば議事録が登録されている」体験が社内に生まれ、AIエージェントへの手応えが一気に高まりました。

2ヶ月目(2026年6月)
現場の壁と、方向性の再設計
2ヶ月目は、M&A実務の中核である資料作成に踏み込みました。案件資料の作成手順をスキルとして整備し、実際に触っていただきながら、希望者への個別フィードバックも実施。開発者向けツールの初期設定でつまずくメンバーの方がいるなど、導入期ならではのリアルな課題も一つずつ拾っていきました。
同時に、現場の壁にも突き当たります。たとえば資料の最終形がPowerPoint前提の業務フローでは、AIの出力をそのまま活かしにくい。「AIが100%の完成品を出すのを待つ」のではなく、「人がアプリケーションを操作する時間を減らし、AIの仕事ぶりを人が確認して直す働き方へ変える」という発想の転換を、定例で繰り返し議論しました。
この時期のもう一つの転換点は、ゴールの再設計です。個別タスクの効率化を積み上げるだけでは、全社の働き方は変わらない。そこで「①社内規定・セキュリティの整備 ②メンバーのリテラシー向上 ③スキル・ナレッジの共有ルール」という全社展開の3論点を整理し、後半戦は「組織の文化づくり」に重心を置くことを決めました。営業現場へのヒアリングで「デスクにいる時間、何をしているのか」を洗い出す取り組みも、ここから始まっています。
さらにこの中期には、機密性の高い情報を扱う事業特性を踏まえ、ローカルLLM(外部に情報を出さず、社内の機材で動かすAIモデル)の構築を見据えたハードウェアの大量調達も決断されました。クラウドのAIとローカルのAIを将来どう使い分けるかまで視野に入れた、「攻め」と「守り」を同時に進める同社らしい投資判断です。
3ヶ月目(2026年7月〜8月)
ワークショップ研修と、自走の加速
3ヶ月目の中心は、メンバーの皆様向けのワークショップ研修です。事前ヒアリングには「提案資料の作成」「メール返信」「リスト作成」など11件もの実務ニーズが集まりました。研修は座学ではなく、一人ひとりが自分のテーマについて「AIに仕事を任せるには、何を渡せばよいか」を考えて発表し、その場で答え合わせをしていく90分。「ニーズはこれからも増え続ける。自社の中で答えを出せる考え方を持ち帰る」ことをゴールに設計しました。
研修後、社内の動きはさらに加速します。自分の業務を効率化するツールを自作するメンバーが現れ、部門の業務手順・ワークフローの文書化が一気に進行。文書化された手順をAIエージェントが参照し、日々の業務進行をサポートする仕組みが形になっていきました。経営メンバーの方が「気づけば1日中、Claude Codeの画面で仕事をしている」と語るほど、働き方の重心が変わっていきました。
最終定例では、3ヶ月の到達点の確認に加えて、AIモデルの使い分けによる運用コストの最適化、機密情報を安全に扱うための設計、複数のAIエージェントに異なる役割を持たせて精度を高める構想など、「次のフェーズ」の議論に多くの時間が割かれました。導入の進め方を話していた3ヶ月前から、議論の次元が確実に変わっています。

支援終盤〜現在(2026年8月)
社内サーバーでAIが24時間働く体制へ
そして支援の終盤、変化は次の段階へ進みます。社内サーバー上でAIエージェントが24時間稼働する体制が動き始めたのです。各自がPCでClaude Codeを立ち上げなくてもAIが自走し、社外からでもチャットツールを介して、社内サーバーのAIに指示ややり取りができる——「人がAIを起動して使う」段階から、「常に働いているAIと人が協働する」段階への移行です。
この体制の上で、通常は上司が担うチームの業務進捗管理は、AIに任せられるようになりました。コーポレート業務でも、出金や契約の最終承認といった「人が判断すべき箇所」だけを人の手に残し、PC上の作業はサーバーやクラウド上でほぼ自動化。社員の役割は「作業をこなすこと」から、「AIの挙動を監視し、判断すること」へと変わりつつあります。
キックオフで掲げられた「社員がPC作業に費やす時間を減らし、人にしかできない仕事に集中できる組織にしたい」という方針が、支援開始時の想定を超える形で実を結びつつあります。
支援前後の変化
| 支援前 | 3ヶ月後 | |
|---|---|---|
| AIの使い方 | チャット型AIへの質問・文章作成が中心 | 業務ワークフローを読み込んだAIエージェントが日常業務をサポート |
| AIの稼働形態 | 必要なときに各自のPCで起動 | 社内サーバー上で24時間稼働。社外からもチャットツール経由で指示可能 |
| 議事録 | 会議後に各自が作成し、社内システムへ手動で登録 | 録音するだけで、作成から登録までが自動で完了 |
| 資料作成 | 案件ごとにゼロから手作業 | 手順のスキル化により、AIの下書きを人が仕上げるスタイルへ |
| 進捗管理 | 上司がメンバーの業務状況を確認して指示 | AIが進捗の確認・管理を担い、人は判断に集中 |
| コーポレート業務 | PC上の作業を人が手作業で実施 | 出金・契約の最終承認を人に残し、それ以外はサーバー・クラウド上でほぼ自動化 |
| メンバーの動き | 一部の詳しいメンバーが個人的に試す | 実務テーマを持ち込み、自分で効率化ツールを作るメンバーが登場 |
| 組織・制度 | AI活用は個人の裁量 | 全社ルールの整備が進み、目標設定にAI活用を組み込む検討へ |
3ヶ月での到達点
社内サーバーでのAI24時間稼働体制
支援終盤には、社内サーバー上でAIエージェントが24時間稼働する体制が始動。各自がPCでClaude Codeを立ち上げなくてもAIが自走し、社外からもチャットツール経由で指示・やり取りができるようになりました。
業務ワークフローの文書化とAIによる進捗管理
主要部門の業務手順・ワークフローが文書化され、Claude Codeがそれを参照して日々の業務進行をサポートする仕組みが社内に構築されました。通常は上司が担うチームの業務進捗管理も、AIに任せられるようになっています。
コミュニケーションと資料作成の効率化
タスクの連絡漏れ・遅れの減少や、資料作成の工数削減など、日常業務レベルでの効果を実感いただいています。
「自分でつくれる」メンバーの増加
研修とフィードバックを通じて、自分の業務を効率化するツールを自作するメンバーが登場。AIに仕事を任せる発想が組織に根付き始めています。
AI活用を前提とした組織運営への進化
コーポレート業務は出金・契約の最終承認だけを人に残し、PC上の作業をほぼ自動化。AI活用を織り込んだ目標設定の見直しなど制度面のアップデートにも着手し、「導入して終わり」ではない継続的な変革のサイクルが回り始めています。
参加者の声
※2026年8月の最終定例でのご担当者様の声(要旨)
人間がやること以外の業務手順・ワークフローはすべて文書化して、AIが読み込んで業務を管理できるところまで来ました。これまで人がやっていた「仕事の状況を確認して指示を出す」という役割を、AIが担い始めています。
最初はチャットAIを使う程度でしたが、研修を通じて自分でツールを作れるメンバーが出てきました。3ヶ月で、見える景色がだいぶ変わりました。
タスクの連絡遅れが減り、資料作成の工数も削減できている実感があります。
先進組織だからこそ出会う、次の課題
AI活用が急速に進んだからこそ、新しい課題も見えてきました。その一つが「AIの回答を、自分の言葉に消化しないまま右から左に流してしまう」という、これからどの組織でも起きうる悩みです。これに対しては「AIの出力であっても、最後に責任を持つのは人間。自分の言葉に落とし込めているかを問う」という原則を共有し、AI時代の仕事の任せ方・評価のあり方まで踏み込んで議論しました。
もう一つが、活用のスピードに「守り」の整備が追いかける展開になったこと。使ってよい情報の線引きや利用ルールの明文化に加え、AIの24時間稼働が始まった現在は、回答精度を高めるチューニングと、AIが想定外の挙動をした場合に備えた防御の仕組みづくりにも取り組まれています。こうした論点を攻めの手を止めずに並行して固めていく——これは導入が停滞している組織には決して生まれない、前進しているからこその課題です。
「攻め」と「守り」を行き来しながら組織の型をつくっていくこのプロセスは、これからAIエージェントの導入を進める企業にとって、そのまま参考になるはずです。
支援を終えて
本件で印象的だったのは、パラダイムシフト様の推進力です。経営メンバーの方が自ら手を動かし、週次の定例のたびに景色が変わっていく——伴走する当社にとっても刺激的な3ヶ月でした。ただ、振り返って成果の核心にあったのは、特別な技術力ではありません。「トップの明確な意思」「小さなテーマから始めて成功体験をつくる」「個人の効率化で終わらせず、文化として根付かせる」という進め方です。
この進め方は、どの企業でも再現できます。社内にエンジニアがいなくても問題ありません。本件で同社が自社実装された連携の仕組みや環境の構築は、通常の支援では当社が技術面を補いながら一緒に進める部分です。大切なのは、最初の一歩を小さく速く踏み出し、成功体験を組織に広げていくこと。3ヶ月の支援期間を終えた今も進化を続けるパラダイムシフト様の歩みが、AIエージェントの導入を検討される企業の参考になれば幸いです。
企業情報
| 企業名 | 株式会社パラダイムシフト |
|---|---|
| 事業内容 | M&Aアドバイザリー/事業開発 |
| URL | https://paradigm-shift.co.jp/ |
