結論 — 指定には2種類あり、書ききるのは片方だけ

「指定しすぎるな」という説と、「ちゃんと指示しないと暴走する」という経験談は、矛盾していません。両者は別のものを指定しているからです。

指示に書く内容は、方法の指定(どうやるか)と、目的と判定の指定(何ができたら終わりか)の2つに分けられます。「書きすぎるな」が当てはまるのは前者だけ。後者は書ききってかまいません。

この2つを分けて考えるようにすると、「どこまで書くか」という悩みはほぼ消えます。迷いの正体は分量ではなく、種類の取り違えだったからです。

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方法の指定目的と判定の指定
書く内容手順・使うツール・処理の順序この仕事の目的・完成の条件・良し悪しの見方
解法への影響より良いやり方を塞ぐ塞がない
時間が経つとモデルが変わると陳腐化する業務の完成条件は変わらない
増やしたとき他の指示と矛盾しやすい矛盾しにくい
書き方の原則原則、書かない書ききる

方法の指定 — 書くほど損をしやすい理由は3つ

方法の指定とは、「まず集計してから貼り付けて」「この機能を使って」「Aを直してからBに進んで」のように、手順や道具を人が決めてしまう書き方です。ここには3つの落とし穴があります。

1つ目は、より良い解法を塞ぐこと。手順を細かく書くほど、その手順が作業範囲の境界として読まれます。途中で別の不整合に気づいても、指定の外にあるものとして素通りされやすくなります。

2つ目は、陳腐化です。方法の指定は、その時点のモデルが苦手だったことを人が補うために書かれます。モデルが更新されて補う必要がなくなると、その一文は残ったまま、むしろ足を引っ張る側に回ります。

3つ目は、矛盾です。方法の指定は1つでは終わらず、気づくたびに増えます。数が増えるほど、別の場面で書いた指示とぶつかり、AIは「どちらに従うべきか」で止まります。

もったいないのは、AIの性能ではなく一文の残り方

半年前に書いた「必ず手作業で確認してから進めること」が、今も毎回読まれている。これは珍しいことではありません。書いた時点では正しく、今は不要になった一文が、気づかれないまま停止の原因になっているのは、もったいない状態です。

目的と判定の指定 — こちらは書ききってよい

目的と判定の指定とは、「何ができたら終わりか」「何を見て良し悪しを決めるか」を書くことです。月次の実績資料なら「合計と内訳が元データと一致していること」、返信の下書きなら「相手の質問3点すべてに触れていること」がこれに当たります。

この種類の指定は、やり方を1つも決めていません。どんな手順で到達してもよく、AIが人の想定より良い道筋を見つけたなら、そのまま採用されます。解法を塞がないので、方法の指定のような損が出ません。

さらに、業務の完成条件はモデルが変わっても変わりません。「数字が元資料と合っている」は、去年も来年も合格条件です。だから陳腐化しにくく、書き足しても互いにぶつかりにくい。増やして困る種類の指示ではないのです。

つまり、「指定しすぎるな」が正しいのは方法について、「指示が足りなくて事故る」が起きるのは目的と判定について。同じ「指示」という言葉で語られるので矛盾して見えるだけで、対象が違います。依頼文の基本形はCodexのプロンプトの書き方にまとめています。

迷った瞬間の判定 — 1行で決まる

書くかどうか迷う一文に出会ったら、次の1行を自分に聞いてください。種類の見分けがつかなくても、この問いなら答えが出ます。

判定の1行

モデルがもっと良いやり方を見つけたら、それを採ってほしいか?

採ってほしいなら、書かない。それは方法の指定です。より良い道があるなら、そちらを通ってもらった方が得になります。

困るなら、書く。ただし「なぜ困るのか」の理由を必ず添えます。たとえば「元ファイルは上書きせず別名で保存」なら、理由は「他部署が同じ元ファイルを参照しているため」です。

理由を添えるかどうかで、想定外の場面での動きが変わります。裸のルールは「守るか、破るか」の2択しかないので、書いたときに想定していなかった状況に当たると、止まるか、無理に従って的外れな結果になります。

理由が書いてあれば、その場で折り合いをつけられます。ルールが何を守るためのものかが分かっていれば、目的を保ったまま別の方法を選べるからです。禁止事項を並べるより、理由つきで1つ書く方が効きます。

同じ一文でも、置き場所でコストが変わる

書くと決めた一文にも、どこに書くかという選択が残っています。同じ内容でも、その場のプロンプトに書くのと、AGENTS.mdやスキルのような永続ファイルに書くのとでは、あとから効いてくるコストが違います。

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置き場所性質あとから効くコスト
その場のプロンプト使い捨て。今回の依頼にだけ効くほぼ無し。外れていても今回限りで終わる
永続ファイル(プロジェクト指示・スキル等)毎回・該当作業のたびに読まれる保守コストが乗る。他の記述と衝突する可能性が積み上がる

迷ったらファイルではなくプロンプトに書く。これが安いやり方です。プロンプトなら、外していても次の依頼には持ち越されません。ファイルに書いた瞬間から、その一文は点検し続ける対象になります。

昇格の目安は単純で、同じことを3回書いたら、そのときファイルへ移す。3回書いたという事実そのものが、「これは今回限りではない」という証拠になります。先回りしてファイルに積むより確実です。

どのファイルへ置くかは、また別の判断です。ルール化するタイミングの見分け方はAGENTS.mdに書くタイミング、仕組み全体の見取り図はCodexのハーネスとはにまとめています。

事前に決めきらなくていい — 2つの失敗は症状が違う

ここまで読んで「結局、最初にどこまで書けば正解なのか」と思われたかもしれません。先に決めきる必要はありません。書きすぎの失敗と、書かなすぎの失敗は見た目が全く違うので、事後に判別できるからです。

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出てきた症状疑うこと次にやること
手は動いているのに終わらない/枝葉に固執している目的と停止条件が足りない完成の定義と、打ち切りの条件を足す
すぐ止まる・聞き返してくる・途中で確認を求めてくる指定が多すぎるか、どこかで矛盾している方法の指定を減らし、矛盾している一文を探す

つまり一発勝負の設計判断ではありません。1回走らせれば、症状がどちらかを教えてくれます。最初から完璧な指示を書こうとして手が止まる方が、よほど時間を使います。

ただし、2つの失敗はコストが対称ではありません。過剰指定の失敗は安く・早く・はっきり出ます。止まるので、その場ですぐ気づく。困りはしますが、被害はその場で止まります。

過少指定の失敗は高く・遅く出ます。しかも厄介なのは、進捗しているように見えること。手は動き続けているので、こちらは待ちます。的外れだったと分かるのは、成果物を受け取ってからです。

本当に迷ったときの寄せ方

どちらに倒すか決められないときは、目的側を厚めに書く。完成の条件・確認の観点・打ち切りの条件を足し、方法側は薄いままにしておきます。外したときの損が小さい方へ寄せておく、というだけの話です。

なお、「何をするにも確認してくる」場合は指示の問題ではないこともあります。承認モードの設定や、既存のルールファイルの矛盾が原因のこともあるので、Astraは言われたことしかやらない?もあわせてご覧ください。

実際の書き方の型 — 指示の骨格に置く4つ

ここまでの判断を、毎回ゼロから考えなくて済むようにしたものが次の型です。指示の骨格として4つを置き、方法は書かない。それだけで、方法の指定が紛れ込みにくくなります。

  1. 1目的 — この成果物が誰の何に使われるか。何が最優先で、何は粗くてよいか。
  2. 2現状 — いまどこまで出来ていて、何が未達か。触らなくてよい範囲はどこか。
  3. 3完成の定義 — 観測可能な条件のチェックリスト。これ以上は作り込まない、と明示する。
  4. 4判定と打ち切り — どう検証するか。何を見て何を無視するか。反復の上限と、詰まったときの動き方。

3と4が、止まらなくなる事故を防ぐ部分です。完成の定義がないと、AIは「もっと良くできるはず」と作り込み続けます。打ち切りの条件がないと、うまくいかない方法を何度も試し続けます。

「これ以上は作り込まない」と明示する一文は、省かれがちですが効きます。上限を書いていない依頼は、上限が無いものとして読まれるからです。完了条件の書き方は/goalコマンドの解説でも掘り下げています。

社内の勤怠集計シートを直してもらうときの依頼文。ファイル名・保存先は自社のものに置き換えます
目的:総務が毎月の締め作業で使う勤怠集計シートを、担当者が引き継いでも迷わず使える状態にする。
数字の正確さが最優先で、見た目の整えは粗くてよい。

現状:集計は動いているが、月をまたぐ打刻が二重に数えられる。
入力用のシートと、給与ソフトへの取り込み書式は触らない。

完成の定義:
・先月分・先々月分の実データで、総労働時間が手集計と一致する。
・月またぎの打刻が1回だけ数えられる。
・担当者が触る手順を、シート内に3行以内で書き添える。
・上記を満たしたら、それ以上は作り込まない。

判定と打ち切り:
・実データで計算し直して確認する。表の色や列幅のズレは無視してよい。
・同じ直し方で2回失敗したら、そこで止めて、代替案を挙げて私に聞く。
・やり方は任せる。もっと良い直し方があればそちらを採ってよい。

この依頼文には、手順が一言も書かれていません。書いてあるのは目的・現状・完成の条件・判定の仕方だけです。「やり方は任せる」の一文があることで、より良い解法が見つかったときに採ってもらえます。

業務での書き分け — 3つの例

同じ仕事でも、書き方を方法側から目的側へ寄せるだけで結果が変わります。当社でよく扱う3つの業務で、書き分けを並べます。左は方法の指定、右は目的と判定の指定です。

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業務つい書いてしまう方法の指定目的と判定の指定への寄せ方
月次の実績資料を作るまず各CSVを1つに結合して、ピボットで月別に集計してから資料に貼って今月の実績資料を作る。合計と内訳が元データと一致していること、前月比が読み取れること。集計のやり方は任せる
問い合わせ返信の下書き過去メールを10件読んで、挨拶・本題・締めの順で3段落にして先方の質問3点すべてに答えた返信の下書きを作る。約束していない納期・価格は書かず、未確定として残す
社内ツールの改修この関数を直して、次にこの画面のラベルを変えて申請者が入力をやり直さずに済む状態にする。既存の申請データが壊れないこと。通しで動作確認が済んでいること

右側の書き方には共通点があります。終わりの状態だけを人が決めて、途中の判断は渡している。そのうえで、「元データを壊さない」のように譲れない点だけを、理由がわかる形で残しています。

この寄せ方は、新しく入った担当者への頼み方とほとんど同じです。手順を全部教えるより、目的と合格条件を伝えた方が、結果的に良い仕事が返ってくる。AIエージェントでも変わりません。

まとめ — 分量ではなく、種類で線を引く

指示をどこまで書くかは、分量の問題ではなく種類の問題です。方法の指定は原則書かない。目的と判定の指定は書ききる。書くと決めたら、理由を添える。これだけで迷う場面はかなり減ります。

そして、最初から正解を当てにいく必要はありません。症状を見れば、どちらに寄せすぎたかは事後に分かります。迷ったときは、損の小さい目的側へ厚めに。方法側は薄いままで十分です。

当社では、この線引きを研修と伴走支援の中で、実際の業務の依頼文に当てはめながらお伝えしています。自社の仕事でどこまで任せられるかを一緒に決めたいという方は、Codex研修・伴走支援もご覧ください。

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