この記事の前提

ここで扱うのは、ChatGPTデスクトップアプリ(Codex)で手元のファイルを読ませて作業を進める使い方です。税務判断や申告の内容をAIに決めさせる話ではありません。Codexの全体像はCodexとは、業務別の頼み方の一覧はCodexの業務活用をご覧ください。

結論 — 任せるのは判断そのものではなく、判断の手前と後ろ

先に結論です。会計事務所でCodexに任せやすいのは、判断の手前にある「集める・揃える・洗い出す」と、判断の後ろにある「書く・まとめる」の工程です。仕訳が正しいか、顧問先に何を勧めるか、といった判断そのものは有資格者に残します。

この線を先に引いておくと、AIの出力を「そのまま使えるか」で評価せずに済みます。確認する前提のたたき台が、確認しやすい形で出てくれば合格です。この割り切りが、事務所にAIを定着させるいちばんの近道になります。

税理士業務がAIエージェントと相性のよい3つの理由

当社が士業向けの勉強会でお伝えしているのは、税理士と社労士はAIエージェントと特に相性のよい士業だということです。理由は業務の性質にあります。

  1. 1定期業務が多い — 月次・年次で同じ作業が繰り返されるので、一度作った手順を何度も使い回せる
  2. 2ルールが明文化されている — 勘定科目の使い分けや事務所の処理方針を、文章でAIに渡しやすい
  3. 3転記と突合が多い — 会計ソフト・銀行明細・請求書の間で数字を照らし合わせる作業は、AIが得意とする領域

ただし、業務を一番理解しているのは現場の税理士・職員の方々です。AI側の使い方の型に、事務所の業務知識を掛け合わせて初めて成果が出ます。逆にいえば、ルールを言葉にできている事務所ほど、すぐに効果が出やすいということです。

業務を「AIが進める工程」と「有資格者が判断する工程」に分ける

まず、事務所の代表的な業務を工程に分解します。1つの業務の中に、AIに渡せる工程と人が持つべき工程が混ざっているのが普通です。業務単位ではなく工程単位で分けるのがポイントです。

表は横にスクロールできます →

業務Codexが進める工程有資格者が判断する工程
仕訳の一次チェック事務所の条件に合わない仕訳を全件から洗い出し、確認リストにする洗い出された仕訳の正誤と修正方針
月次報告前月・前年同月との増減の整理、報告文のたたき台顧問先への説明内容と所見・アドバイス
資料依頼不足資料の一覧化と、顧問先に送る依頼文の下書き送付の判断と、顧問先との関係を踏まえた言い回しの調整
システム間の突合会計データと明細・請求書一覧の照合、差異の一覧化差異の原因の判断と処理
申告・税務判断根拠資料の整理と索引づくり判断のすべて

表の右列は、AIの精度が上がっても人に残す前提で考えます。左列は、最初から全部を任せる必要はありません。1つの業務の1つの工程から始めて、うまくいったら広げるのが確実です。以下、代表的な4つの工程の頼み方を見ていきます。

活用例1 — 仕訳の一次チェックは「例外だけを出させる」

仕訳チェックで大事なのは、全件を見せて「おかしいところはありますか」と聞かないことです。何をおかしいとするかは事務所ごとに違うので、条件を先に言葉にして渡します。Codexの仕事は、その条件に合わない仕訳を漏れなく拾うことです。

仕訳の一次チェックを頼む依頼文の例
このフォルダの「仕訳帳_10月.csv」を読んで、次の条件に当てはまる仕訳だけを一覧にしてください。

・摘要が空欄、または「その他」「雑」だけのもの
・同じ日付・同じ金額・同じ取引先の仕訳が2件以上あるもの
・「会議費」で1件あたり2万円を超えるもの
・前月までに一度も使っていない勘定科目の仕訳

元のCSVは変更しないでください。結果は「確認リスト_10月.xlsx」として新しく作り、該当した条件と行番号を列に入れてください。

条件の部分は、事務所でふだん職員に口頭で伝えているチェックポイントをそのまま書けば十分です。出てきた確認リストを見て判断するのは人の仕事なので、AIの役割は「見落としを減らす網」です。網の目は、使いながら条件を足して細かくしていきます。

活用例2 — 月次報告は数字の整理と文章のたたき台をつなぐ

月次報告で時間がかかるのは、試算表から増減を拾い、それを文章にする部分です。ここは数字の整理と文章の初稿をひと続きで頼めるのがCodexの強みです。所見やアドバイスは、たたき台を見ながら担当者が書き足します。

月次報告のたたき台を頼む依頼文の例
「試算表_10月.xlsx」と「試算表_9月.xlsx」「試算表_前年10月.xlsx」を読んで、月次報告のたたき台を作ってください。

・売上・売上原価・販管費の主要科目について、前月比と前年同月比の増減額と増減率を表にする
・増減率が20%を超えた科目を抜き出し、「確認したい点」として箇条書きにする
・報告文は顧問先の社長向けに、専門用語を避けて400字程度で書く
・原因が試算表から読み取れないものは推測で書かず、「要確認」と書く

最後の1行が大切です。分からないことを推測で埋めさせないと先に伝えておくと、もっともらしい作文が混ざるのを防げます。「要確認」の箇所こそ、担当者が顧問先に聞くべき論点です。表や報告書の体裁を整えるコツはCodexで資料作成で解説しています。

活用例3 — 資料依頼の文面は不足リストから作る

毎月の資料回収は、誰に何が足りないかを把握する作業と、依頼文を書く作業に分かれます。どちらも地味に時間を取りますが、Codexに任せやすい工程です。受領済みの一覧と必要資料の一覧を渡せば、差分の洗い出しから文面まで一度に進みます。

資料依頼の下書きを頼む依頼文の例
「必要資料一覧.xlsx」と「受領済み_10月.xlsx」を見比べて、顧問先ごとに未受領の資料を一覧にしてください。

そのうえで、未受領がある顧問先それぞれに送る依頼メールの下書きを作ってください。
・件名と本文を分ける
・未受領の資料名を箇条書きで入れる
・提出期限は「11月10日」とする
・送信はしないでください。下書きをファイルに保存するところまでで止めてください

ポイントは、送信はせず下書きで止めるよう明示することです。顧問先との関係によって言い回しを変えたい場面は多いので、最後に人が目を通してから送る流れにしておきます。メールを扱うツールとの接続はCodexの標準プラグインで紹介しています。

活用例4 — システム間の突合は元ファイルを守って差異だけ出す

会計データと銀行明細、請求書一覧と売掛金の残高など、システムをまたぐ照合は会計事務所の定番作業です。Codexには、両方のファイルを読ませて一致しないものだけを一覧にさせるのが基本です。差異の原因を判断するのは担当者です。

このとき、元のファイルは書き換えさせず、結果は別ファイルに出させるのが鉄則です。照合の列の指定や、表記ゆれのある取引先名の扱いなど、Excelを使った突合の詳しい頼み方はCodexでExcel作業を任せる方法にまとめています。

始める前に決めておく3つのこと

依頼文の質と同じくらい効くのが、Codexが作業する環境の整え方です。会計事務所で最初に決めておきたいのは、次の3つです。

① 顧問先ごとに作業フォルダを分ける

Codexは、指定した作業フォルダの中のファイルを読んで動きます。顧問先ごとにフォルダを分けておけば、別の顧問先の資料が混ざる心配が減ります。フォルダの作り方と切り替え方はCodexのプロジェクトとはで解説しています。

② 事務所のルールをファイルに書いて読ませる

勘定科目の使い分け、報告文の書き方、顧問先ごとの特記事項。毎回依頼文に書く代わりに、AGENTS.mdというルールファイルに書いておくと、Codexが作業のたびに読み込みます。事務所共通のルールと顧問先ごとのルールを分けて置くと、職員が変わっても品質が揃います。書き方はAGENTS.mdの書き方をご覧ください。

③ 扱ってよい情報と承認の範囲を決める

顧問先の情報をどこまでAIに渡すかは、事務所として先に方針を決めておくことが欠かせません。あわせて、ファイルの変更や外部への送信の前に人の確認を挟む設定にしておくと安心です。製品側の安全設定はCodexのセキュリティとCodexの承認と権限にまとめています。

最初の1業務は「作らせる」より「チェックさせる」から

どの業務から始めるか迷ったら、仕訳の一次チェックのような「チェック型」の工程がおすすめです。数字を作るのは従来どおり人と会計ソフトに残し、AIには確認の網だけを任せるので、今の業務の流れを変えずに試せます。

1つの顧問先の1か月分で試し、出てきた確認リストが使えると分かったら、他の顧問先にも広げます。同じ依頼を毎月繰り返すようになったら、その手順をスキルとして保存し、次からは一言で呼び出せる形にします。作り方はCodexのSkillsの作り方で解説しています。

Claude Codeで進める場合

当社はGemstone税理士法人様でのClaude Code研修で、会計ソフトとAIをつないだ業務の自動化を実演しました。工程を分けて任せるという考え方はCodexでも同じです。Claude Codeでの進め方は税理士・会計事務所のClaude Code活用をご覧ください。

まとめ — 空いた時間を、顧問先との対話に振り向ける

税理士・会計事務所の業務は、定期業務・明文化されたルール・転記と突合という3つの点でAIエージェントと相性がよい領域です。業務を工程に分け、判断の手前と後ろをCodexに、判断そのものを有資格者に残す。この線引きが、安心して任せるための土台になります。

定期業務にかかっていた時間は、顧問先との対話や提案といった、人にしかできない仕事に振り向けられます。自事務所の業務を題材に工程の棚卸しから一緒に進める支援は、当社のCodex研修・導入伴走支援で行っています。

Codexを組織に定着させたい企業様へ。AI Orchestraの法人研修・導入支援をご覧ください。