この記事の前提

本記事は、ChatGPTデスクトップアプリ(Codex)に事務所のフォルダにあるファイルを読ませて作業させる使い方を扱います。労務判断や手続きの要否をAIに決めさせる内容ではありません。Codexそのものの説明はCodexとはを、士業以外も含めた頼み方の一覧はCodexでできることをご覧ください。

結論 — 「所長に聞かないと分からない」を、フォルダに置いたルールで減らす

先に結論です。社労士事務所でCodexがいちばん効くのは、顧問先ごとのルールと過去の判断を、毎回所長や前任者に聞かなくても確認できる状態をつくることです。規程・給与計算の手順・対応履歴を顧問先別のフォルダに置き、根拠を示して答えさせます。

そのうえで、届出や給与データの確認は「作らせる」のではなく「食い違いを出させる」形で任せます。労務判断と申請の実行は社労士に残します。この線引きを先に決めておくと、AIの答えを疑いながら使う負担が減り、事務所に定着しやすくなります。

社労士業務がAIエージェントと相性のよい3つの理由

当社が士業向けの勉強会でお伝えしているのは、社労士と税理士はAIエージェントと最も相性のよい2つの士業だということです。理由は、業務の中身そのものにあります。

  1. 1定期業務が多い — 入退社の手続き、算定基礎届、年度更新、毎月の給与計算と、同じ時期に同じ作業が繰り返される
  2. 2ルールが明文化されている — 法令・通達に加えて、就業規則や賃金規程、顧問先ごとの取り決めが文書になっている
  3. 3突合が多い — 勤怠と給与、届出と台帳、元データとシステム出力を照らし合わせる場面が日常的にある

この3つは、どれもAIエージェントが得意とする「繰り返し・ルール・照合」です。ただし、その業務を一番理解しているのは社労士ご自身です。AI側の使い方の型に、事務所の業務知識を掛け合わせたときに成果が出ます。

税理士・会計事務所の方は、同じ考え方で工程を分けた税理士・会計事務所のCodex活用をご覧ください。

業務を「Codexが進める工程」と「社労士が判断する工程」に分ける

社労士業務の1つひとつには、AIに渡せる工程と、有資格者が持つべき工程が混ざっています。「この業務はAI向きか」と業務単位で考えるのではなく、工程単位で分けると、任せられる範囲が具体的になります。

表は横にスクロールできます →

業務Codexが進める工程社労士が判断する工程
顧問先ルールの確認規程・手順メモ・対応履歴から該当箇所を探し、根拠つきの回答案を出す回答案の採否と、顧問先への説明内容
就業規則の点検・改定現行規則と改定方針の突き合わせ、条番号・参照条文の整合確認、新旧対照表の下書き労務判断が要る箇所の確定と、法令適合性の最終確認
手続き書類のチェック届出の内容と台帳・元データの照合、食い違いの一覧化食い違いの正誤判断と修正、申請の実行
給与計算のチェック元データとシステム出力の全件突合、差異と判断材料の整理差異の原因判断と、顧問先への説明
公文書の整理ZIPの解凍、書類の判読、ファイル名の統一、顧問先フォルダへの振り分け例外的な書類の扱いと、顧問先への送付
労務相談・申請関連資料の整理と論点の洗い出し判断と回答のすべて

右の列は、AIの精度が上がっても人に残す前提です。左の列も、最初から全部を任せる必要はありません。以下、代表的な4つの工程について、そのまま使える依頼文とあわせて見ていきます。

活用例1 — 顧問先ごとのルールと過去の判断を、根拠つきで確認させる

社労士事務所でよくあるのが、「この顧問先の残業代の端数処理はどうだったか」「前回の育休ではどう対応したか」が、所長や前任者に聞かないと分からない状態です。原因は、ルールと判断が人の記憶にしかないことにあります。

Codexに任せるときは、顧問先ごとに作業フォルダを分け、その中に就業規則・賃金規程・給与計算の手順メモ・過去の対応履歴を置きます。あとは、フォルダを読ませて質問するだけで、該当箇所を根拠として示した回答案が返ってきます。

顧問先ルールの確認を頼む依頼文の例(顧問先名は架空です)
このフォルダにある株式会社あおぞら商事の規程と対応履歴を読んで、次の質問に答えてください。

質問: 時間外労働の割増賃金を計算するとき、1か月の時間数の端数はどう扱う取り決めになっていますか。

・根拠になる規程名と条番号、または対応履歴の日付を必ず添えてください
・フォルダ内の資料に書かれていないことは推測せず「資料に記載なし」と答えてください
・法令の一般論と、この顧問先固有の取り決めを分けて書いてください

ポイントは最後の2行です。資料にないことを推測で埋めさせないこと、法令の一般論と顧問先固有の取り決めを分けさせることで、回答をそのまま信じる使い方ではなく、根拠を確かめる使い方になります。採用するかどうかを決めるのは社労士です。

顧問先別のフォルダの作り方と切り替え方はCodexのプロジェクトとはで、資料を「生データ」と「整理済み」に分けて置く考え方はCodexのコンテキストで解説しています。

活用例2 — 就業規則の一次点検は「要・確認」を付けさせる

就業規則の改定には、条文を1つ足すと条番号がずれ、他の条文からの参照も直さなければならないという、神経を使う割に地味な作業がついて回ります。ここはCodexが得意な領域です。しかも規程文書は個人情報を含まないので、実データを使わずに試せます。

就業規則の改定案を頼む依頼文の例
「就業規則_現行.docx」と「改定方針メモ.md」を読んで、改定案を作ってください。

・条文を追加・削除したら、条番号のずれと、他の条文からの参照をすべて確認して直してください
・労務上の判断が必要な箇所には本文を書かず「要・確認」と入れて、何を決める必要があるかを添えてください
・現行と改定案を見比べられる新旧対照表を、別ファイルで作ってください
・元のファイルは変更しないでください

出てきた改定案のうち、「要・確認」が付いた箇所が社労士が判断する工程です。顧問先の社長と決めるべきことと、専門家として判断すべきことを分けた表を追加で作らせると、打ち合わせの準備まで一度に進みます。

規程の文書をWordやGoogleドキュメントの形式で受け渡しする方法は、Codexの標準プラグインで紹介しています。

活用例3 — 届出と給与のチェックは「食い違いだけを出させる」

ミスが許されない給与計算や届出で、AIに数字を作らせるのは不安があるものです。当社がおすすめしているのは、数字を作るのは今までどおり人とシステムに残し、Codexには見落としの検知だけを任せる形です。これなら、今の業務の流れを変えずに始められます。

給与データのチェックを頼む依頼文の例
「給与_元データ_10月.csv」「給与_システム出力_10月.csv」「個別対応メモ_10月.md」を読んでください。

・2つのCSVで金額や時間数が食い違う行を、全件洗い出してください
・食い違いごとに、個別対応メモに関係する記載があればそれを引用し、どちらが正しそうかの当たりを付けてください
・メモに記載がないものは「要確認・勤怠原本を参照」としてください
・人が確認すべき箇所だけをまとめたレポートを「確認レポート_10月.md」として作り、元のファイルは変更しないでください

レポートに残るのは、判断材料つきの「人が確認すべき箇所」だけです。最終確認は社労士が行うので、減るのは工数と目視突合の心理的負担です。同じ型は、算定基礎届や資格取得届の内容と台帳の照合にも、そのまま使えます。

CSVやExcelを読ませるときの列の指定、表記ゆれの扱い、元ファイルを守る指示の出し方は、CodexでExcel作業を任せる方法に詳しくまとめています。

活用例4 — 電子申請の公文書は、人が開かずに整理させる

電子申請で届く公文書は、到達番号だけのZIPを開いて中身を判読しないと、どの顧問先の誰の書類か分からないことがあります。Codexには、ZIPの解凍から書類の判読、「日付_書類名_対象者名」への改名、顧問先フォルダへの振り分けまでをまとめて任せられます。

送付の準備まで進めるときは、メールの下書きを作るところで止め、送信は人が行うよう明示します。取り返しのつかない操作を人の確認に残すのは、どの業務にも共通の設計です。ファイルの変更や外部への送信の前に確認を挟む設定は、Codexの権限設定と4つの承認方法で解説しています。

繰り返す手順は、2回目でスキルにする

毎月同じチェックを頼むようになったら、その依頼文と手順をスキルとして保存し、次からは一言で呼び出せる形にします。スキルは、噛み砕けば事務所の職員向けマニュアルです。増やすほど「毎回ゼロから考えなくていい手順」が事務所の資産になります。

合言葉は「2回やったな、と思ったらスキルにする」です。作り方はCodexのSkillsの作り方を、事務所共通のルールと顧問先ごとのルールをファイルに書いて毎回読ませる方法はAGENTS.mdの書き方をご覧ください。

顧問先の情報をどこまで入れるかは、感覚ではなく契約から決める

顧問先の規程や給与データをAIに渡す前に、事務所として扱ってよい情報の範囲を決めておくことが欠かせません。基準は「なんとなく不安かどうか」ではなく、顧問先との契約、利用するプランのデータ利用条件、事務所のルールの3つです。

  • まず実データが要らない業務から — 就業規則など規程文書の仕事と、架空のテストデータでの検証から始める
  • 契約とプランの条件を確認する — 顧問先との契約で認められている範囲と、契約プランで入力データがどう扱われるかを確認する
  • 事務所のルールとして明文化する — 「この業務はここまで任せる」を文書にして、職員が毎回迷わないようにする

個人情報の扱いは顧問先との契約や法令上の義務にも関わるため、必要に応じて専門家や契約内容の確認を挟んでください。製品側の安全設定(サンドボックス・承認・学習への利用)はCodexのセキュリティにまとめています。

事務所として契約する場合のプランの構造は、Codexの法人契約で解説しています。

最初の1業務は、実データが要らない仕事かチェック型から

どこから始めるか迷ったら、候補は2つです。1つは就業規則の点検のような、実データが要らない文書の仕事。もう1つは、給与データの突合のような「チェック型」の工程です。どちらも今の業務の流れを壊さず、効果を実感しやすい入口です。

1つの顧問先の1か月分で試し、使えると分かったら他の顧問先へ広げます。慣れてきたら、顧問先ごとのルールと対応履歴をフォルダに貯めていく活用例1へ進むと、事務所の蓄積がそのままAIの答えの根拠になる状態に近づきます。

Claude Codeで進める場合

当社は社労士向けセミナーで、公文書整理・就業規則の改定案・給与チェックの3業務をClaude Codeで実演しました。工程を分けて任せる考え方はCodexでも同じです。Claude Codeでの進め方は社労士事務所のClaude Code活用を、社労士事務所での導入検証はリード社会保険労務士法人様・エスパシオ様の事例をご覧ください。

まとめ — 空いた時間を、顧問先との対話と提案に振り向ける

社労士業務は、定期業務・明文化されたルール・突合という3つの点でAIエージェントと相性のよい領域です。顧問先ごとのルールと判断をフォルダに置いて根拠つきで確認させ、届出と給与は食い違いだけを出させる。判断と申請は社労士に残す。この分け方が、安心して任せる土台になります。

手続きや確認にかかっていた時間は、顧問先との対話や提案、組織づくりの支援といった、社労士にしかできない仕事に振り向けられます。自事務所の業務を題材に、工程の棚卸しから一緒に進める支援は、当社のCodex研修・導入伴走支援で行っています。

Codexを組織に定着させたい企業様へ。AI Orchestraの法人研修・導入支援をご覧ください。